東京地方裁判所 昭和48年(むのイ)342号 決定 1973年4月14日
被告人 村松和行
主文
本件準抗告を棄却する。
理由
第一申立の趣旨
「被告人(当時被疑者)に対し、昭和四八年二月一五日東京地方裁判所裁判官が爆発物取締罰則違反被疑事件についてなした勾留の裁判のうち、勾留場所を代用監獄万世橋警察署留置場と定めた部分を取り消し、被告人の勾留場所を東京拘置所と定める。」旨の裁判を求める。
第二申立の理由
一、被告人(当時被疑者)を取調の必要のため、代用監獄に勾留したことは違法または不当である。
二、被告人が勾留された別紙第(二)記載の事件につき、公訴提起がなされたのちも、余罪について取調のため、現在も引き続き、代用監獄に身柄を拘束していることは違法または不当である。
よつて被告人の勾留場所を前記留置場とした原裁判は違法または不当であるのでその部分の取消、変更を求めてて本件準抗告に及ぶ。
第三当裁判所の判断
一、関係記録によれば次の事実を認めることができる。
(一) 被告人は昭和四八年一月二二日別紙(一)記載の事実の被疑者として逮捕され、同月二四日東京地方裁判所裁判官により勾留場所を代用監獄万世橋警察署留置場と定めて勾留され、同年二月一日勾留の期間延長ののち、同月一二日右事実につき同裁判所に公訴提起された。
(二) 被告人は、同様に同日別紙(二)記載の事実の被疑者として逮捕され、同月一五日同裁判所裁判官により勾留場所を前記留置場と定めて勾留され、同月二三日勾留の期間延長ののち、同年三月六日右事実につき同裁判所に公訴提起され、その後も引続き同留置場に勾留されている。
二、関係記録よりうかがわれる別紙(二)記載の事実の事案の内容その他一切の事情を考慮すると、原裁判が、当時勾留場所を代用監獄に定めたことは違法とも不当とも認めがたいので、申立の理由一の弁護人の主張は、採用できない。
三、申立の理由二の弁護人の主張について考えてみると、所論の実質は、現段階において、被告人の身柄を代用監獄から勾置所に移すことを求めるもの、すなわち勾留場所の変更ないし移監の措置を要求しているものであることが明らかであり、したがつて、検察官が移監の措置をとらない本件においては、現行刑訴法上裁判所が職権により勾留場所の変更ないし移監をなしうるかどうかがまず検討されなければならない。
この点について現行法規上明文はないが、一般的に明文のないことをもつてただちに裁判所にそのような権限がないものと即断することは相当でなく、関係法規の立法の趣旨、相互の関係等を考慮し、適正な解釈によつてこれを定めるべきところ、裁判所(官)は勾留状の発付のみならず、その執行後においても職権でその勾留の取消(法八七条一項)、執行停止(九五条)、保釈(九〇条)をなしうるなど、被告人(被疑者)の身柄の処置につき包括的な権限を認められており、勾留の場所についても、勾留状発付の際検察官の請求になんら拘束されずにこれを決定しうる(法六四条一項参照)のであるから、勾留状発付後の事情の変更により、最初勾留状に定めた勾留場所が適当でないと認めるに至つたときは、職権により勾留の場所を変更することができるものと解するのが相当である(旭川地方裁判所昭和四七年九月八日決定、判例タイムズ二八五号二五三頁参照)。
してみると、申立の理由二については、制度上右のような解決の道があるのであるから、原裁判の適法性および相当性を事後的に審査し、簡易迅速に処理すべき準抗告審としては、本件のように原裁判後著しく遅れて生じた事情を考慮して立ち入ることは許されないものと解するのが相当である(弁護人としては、勾留場所の変更につき当地方裁判所刑事第一四部の裁判官に対し職権の発動を求めるなどの措置をとるべきである。)。
四、よつて、本件準抗告は結局理由がないことに帰するから、刑訴法四三二条、四二六条一項により主文のとおり決定する。
別紙(一)
被告人は、ほか数名と共謀のうえ、治安を妨げ、かつ、人の身体、財産を害する目的をもつて、昭和四四年一一月一日午後一時ころ、東京都千代田区永田町二丁目一四番二号山王グランドビル二階アメリカ大使館広報文化局アメリカ文化センター受付において、煙草ピース空缶にダイナマイトおよび塩素酸カリウムを充填し、これに電気雷管、タイマーおよび電池を結合した時限装置付手製爆弾を右受付カウンター上に装置し、もつて、爆発物を使用したものである。
別紙(二)
被告人は、ほか数名と共謀のうえ、治安を妨げ、かつ、人の身体、財産を害する目的をもつて、昭和四四年一〇月二四日午後七時ころ、東京都新宿区若松町九五番地警視庁第八機動隊、同第九機動隊正門前路上において、煙草ピース空缶にダイナマイトなどを充填し、これに工業用雷管および導火線を結合した手製爆弾一個を右導火線に点火して前記機動隊正門に向けて投てきし、もつて、爆発物を使用したものである。